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「100歳まで元気に生きる!」(ジョン・ロビンズ)レビュー
評価:
ジョン・ロビンズ
アスペクト
¥ 2,100
(2006-09-19)
タイトルだけ見ると、単に長生きするためのノウハウを集めたお手軽な実用書かと思われてしまいそうだが、全く違う。むしろ学術書に分類されるような内容です。長寿だけでなく「健康的に」長く生き続けるための方法を、多くの事例や文献を参照しながら、多角的に説明しています。

類書として、「病気にならない生き方」が有名ですが、これは、医師が自らの経験に基づく考えを述べており、非常に参考にはなるものの、客観性に疑問が残る部分もありました。一方、本書は、多数の文献・実験データを参照し、引用元も明記してあるため、記述に客観性があり、十分信頼できるように思えました。これら2冊を含めて、類書をいくつか読んだ上で、共通する事項(例えば動物性の食品を控えるなど)を実践しておけば間違いないかと思われます。

本書では、長寿の地域の事例として、アブハズ、ヴィルカバンバ、フンザ、沖縄を取り上げています。これらの事例を読むと、今の日本人の多くがいかに不健康な生活環境に置かれているかを思い知らされます。ただ、これらの地域について、長寿の側面だけを全面的に賞賛するだけでなく、衛生面で問題がある場合がある、近年は欧米文化の影響を受けて病気が増えている、などの否定的な面にも触れています。これらの地域をそのまま真似すればいいというわけではない、と冷静な議論をしている点からも、本書のバランス感覚の良さがうかがえます。

大別すると、食生活、運動、精神面の3点が重要であると説いています。特に食生活に関する説明は、情報量が多く、非常に参考になります。運動の必要性についても、十分納得できる説明があります。ただ、精神面が長寿・健康に与える影響については、因果関係はあるのだろうし、ある程度証拠も出てきているが、まだ研究が十分に進んでいないようにも思われました。

本書を読んで、歳をとることに対するネガティブなイメージが軽減されました。むしろ、老後が楽しみにすら思えてくるほどです。定年退職後は趣味を楽しんで、100歳まで元気に生きて、病気にはならず、眠るようにコロっと死ぬ、という理想的な老後を送りたいものです。その希望を与えてくれます。生活習慣病やメタボリックシンドロームの心配をするよりも、もっと高い次元で、長期的観点から、自らの健康を考えるきっかけを与えてくれます。高齢の人よりも、むしろ、若い人に読まれるべき本だと思います。
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■読書メモ(本書で印象に残ったこと):

○ 長寿の地域:
・アブハズ:長寿であるだけでなく、心身ともに健康なまま長生きする人が多い。長寿者は、日々の生活で多く運動する。
・ヴィルカバンバ:アブハズと同様、老人が敬われる。また、よく笑う。
・フンザ:完全な有機農法を何世紀も続けてきた。フンザでは、死に先立つ病気・苦しみはない。
(3地域の食事は共通している。新鮮な野菜、果物、全粒穀物、木の実が中心。調理はあまりせず、生のまま食べることが多い。動物性のものはほとんど食べず、低カロリー。)
・沖縄の老人は、前立腺がん、乳がん、骨粗鬆症などが少ない。ただし、若い世代は、食生活の欧米化により、健康を害している。

・実験から、低カロリー・高栄養価の食事を続けると、年齢を若返らせることができた。(6年続けたが、15年若かった。)

○食事:
・全粒小麦を精白すると、ビタミン・ミネラル等の大部分が取り除かれる。
・アボリジニの先住民は、近年、加工食品を食べるようになって、白人の病気をするようになった。
・中国で、世界最大規模の食生活調査があった。地域により癌罹患率の差がある。植物性食品をとり、動物性食品を避け、血中コレステロール値を下げることで癌罹患率が下がることが明確になった。
・オメガ3脂肪酸は、多様な身体・精神面での恩恵をもたらす。特にDHA,EPAの摂取には、魚、特に天然の(養殖ではない)サケが有効。(動物性の食べ物は、魚だけで十分?)
・米国の養殖魚には、エサや環境に問題があり、毒性物質が多く含まれる。また、魚を多く食べると血中水銀濃度が上がるため、食べ過ぎないこと(米国の場合?)。
・肉から鉄分(ヘム鉄)をとると、過剰分が活性酸素になり、早期老化を招く。植物から得られる非ヘム鉄は、必要分のみ吸収され、健康と長寿に繋がる。

○運動:
・運動は高齢者でも必要。有酸素運動、ストレッチング、筋力トレーニングを行うこと。
・実験の結果、カルシウム摂取より、運動をするほうが、骨密度が高くなる。
・脂肪に対する筋肉の割合を高くすること。
・いくら運動しても食生活が悪ければダメ(運動中の突然死は、食生活が原因?)。
・脳の能力維持、アルツハイマー病予防には、運動と、抗酸化物質を多く含む食品(新鮮な野菜、果物、全粒穀物、豆類)、魚が有効。肉は最小限に。
・人間関係、愛情が長寿・健康に結びつく実験データもある。社会との関わりを持つことが重要。ストレス、有害な人間関係は逆効果。
・日本が世界一の長寿国なのは、平等な協調社会が要因。

○例外:
どんなに健康的な食生活、運動をしても、思わぬ要因で早く死ぬこともある。ただ、できるだけ病気を予防し、苦痛を弱める努力をする価値はある。
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|医療・健康・食品 | comments(1) | trackbacks(1) |
「生物と無生物のあいだ」(福岡伸一)レビュー
私も普段から、生命とは何か、ということはよく考えていたのでした。考えれば考えるほど奥が深い問題です。仮に、地球以外の天体にも生命体らしきものが存在する場合、それは地球と同様に、タンパク質で構成され、DNAを持つのか、あるいは全く別の分子構造で自己複製を実現するのか、とか・・・。昔はそんなことを考えることもなかったのですが。学生の頃も、物理・化学の授業しかとってませんでしたが、今では生物学のほうが興味があります。

本書は、生命とは何かについてより深く考えるきっかけを与えてくれましたが、やはり結論は出ません。本書の言うように、自己複製ではなく、動的平衡こそがその答えだというのは、分かる気がするのですが、その動的平衡を可能にさせる要因・機能は何か、ということが本書でも具体的に説明されていません。そのあたりを詳しく書いた書籍があれば読みたいです。

本書で最も印象的だったのは、動的平衡である生物には、不可逆な時間の流れがあり、一度折りたたんだら二度と解くことはできない、そこが、部品交換できる機械とは違う点だ、という説明です。生命の営みに操作的な介入をすることの危険性も感覚的に分かりました。遺伝子組み換え食品の安全性の議論も、時間の経過とともに、動的平衡にどのような影響が出るかが論点なのでしょうね。

全体として、科学者が書く文章とは思えないほど、読みやすさと面白さが両立されています。科学技術系の仕事の話を、ある程度専門的に細かく、ドラマチックに描くことができる人は稀有な存在だと思います。また、大学での生物学系の研究者の考え方、研究室の様子が臨場感をもって書かれていて、私のいた工学系との違いも分かって面白かったです。
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■読書メモ(本書で印象に残ったこと):

・ロックフェラー大学での野口英世の評判は悪い。野口の研究業績が死後50年経って検証されたが、意味のあるものはなかった。当時それに気づく人がいなかった。

・ウィルスは、一切の代謝を行わず、結晶化することもあり、物質的である。しかし自己複製能力を持つ。自己複製するものが生物、と定義するなら、ウィルスは生物と言えるが、生物か無生物かの結論は出ていない。著者は、生物ではないと考える。

・DNAの二重らせん構造を発見したのは、ワトソンとクリックだが、そのヒント、つまりDNAイコール遺伝子だと世界で初めて気づいたのはオズワルド・エイブリーである。彼にノーベル賞が与えられなかったのは不当だと言われている。また、ワトソンとクリックは、不正に得た情報(ロザリンド・フランクリンの功績によるDNAのX線写真の覗き見)から発見に至った。

・米国の大学は、日本の大学のような教授・准教授等の職階間の支配関係はなく、独立した研究者であり、大学と研究者の関係は、貸しビルとテナントのようである。研究費は自ら稼ぎ、額に応じて研究スペースが割り当てられる。人の入れ替わりも激しい。

・シュレーディンガーの説:われわれの身体は、原子に対して何故これほど大きいのか。原子はランダムな熱運動をするが、原子が多数あれば、その平均的な動きに一定の傾向、つまり生命体の持つ秩序が生まれる。n個の粒子があれば、そのうちルートn個が平均的ふるまいから外れた動きをする。誤差率は {√n}/n であり、nが大きくなるほど、誤差率は小さくなる。人間の生命現象に求められる低い誤差率を実現するため、人間の原子数はこれほど多く、身体はこれほど大きい。

・エントロピーは増大する方向に向かう。それは死を意味する。食べることで、生命はエントロピーを下げることができる。

・シェーンハイマーの重窒素を用いた実験により、生命体とは、ダイナミックな流れ=動的平衡であることが分かった。

・細胞生物学とは「トポロジー」の科学であり、建築家に似ている。

・ある遺伝子をノックアウトしても、動的平衡がピースの欠落を補完し、分化・再生により最後まで「折りたたまれる」。不完全なピース(例えばプリオンタンパク質)を与えると、時間の経過により、折りたたみに失敗し、異常が発生する。生物には、不可逆の時間の流れがある。
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|科学技術 | comments(6) | trackbacks(0) |